LCSシーンにおける選手の獲得競争の厳しさをG2オーナーの意見とともに確認してみます．
2017年春のRoster Changes
プロシーズンはオフシーズンですが，シーズンを終えた選手たちが移籍したりしなかったりしながら有名チームのRosterが決まりつつあります．
世界的に見て最もハイレベルなLCKからみてみると，WCS連覇を成し遂げたSKTはこれまで中核を担ってきたBengi選手の離脱が話題となり，今シーズン注目を集めたPeanut，Huni選手が加入することとなりました．またFaker選手を抑えて今年のWCSにおける注目選手No.1となったSmeb選手を始めとして，LCKのトッププレイヤーであるPawn，Deft，Mata選手がKT Rolsterに集合し，注目の構成となっています．一方でROX Tigersは選手の確保ができていないように見受けられますが，これから誰を獲得していくのかも気になるところです．
そしていろいろな意味で大注目となっているNAに目を移してみます．最も愛されているチームの一つといっても過言ではないTSMですがDoubleLift選手の休養に伴う春季出場休止，そしてIMTからWildturtle選手のカムバックが話題となりました．その裏でIMTはHuni，Reignover選手の黄金コンビがバラバラに出ていき，Wildturtleというレジェンドとペアを組まされていながら負けず劣らずの大活躍したAdrian選手も離脱ということでRosterが大幅に入れ替えとなりました．こちらは2016年の勢いを保てるのか気になるところです．またC9でも長年チームを支えたMeteos選手が離脱し，若手のContractz選手へと世代交代しています．逆にCLGのメンツは今のところ一切変わらずで，固くなった結束で来シーズンどのような強さを見せるのか注目となりそうです．
オフシーズンに動画を公開することでチーム内の不和を暴露したTLですが，SKT T1でも活躍していたPiglet選手とIMTから離脱したReignover選手を獲得しています．Reignover選手は実力もさることながら，英語も話せますからチーム内の言語の壁，コミュニケーションエラーをできるだけ取り払おうという狙いなのかもしれません．似た動きはPhoenix1でも見られ，EUのベストMidレーナーとしてH2KをWCSまで牽引したRyu選手，LCKからArrow選手だけでなく，Zig選手やAdrian選手などもそのRosterに名を連ねています．昨シーズン活躍したプレイヤーが集結しており，興味深い面々が集まっています．こうしてみると相当“アツい”と言われた2016年のNA LCS以上に“アツく”なりそうな予感で，どのチームが勝ち進んでいくのか非常に楽しみになりますね．
その他のリージョン，EUなどでも同じようにRosterの動きがあり，有名選手の移籍というものが相次いでいる形となっています．
G2オーナーの見解
そんなRosterの切り替わりの裏側でG2のオーナーであるCarlos “ocelote” Rodríguez Santiago氏がYahoo! eSportsのインタビューに答えながら，今年の選手獲得競争の激しさを述べているので軽くチェックしていきます．まずRiotが定める選手の最低賃金として＄12,500/seasonという数値があります．これを単純計算で2倍すれば$25,000が年間でRiotから支払われていることになります．しかし以前紹介したMontecristo氏の動画では“昔はそれで（も）良かった”でも“今は3倍になったんだ”と語っています．とすればチームが支払っているのはおおよそ$75,000になるのかなと思いますが，それ以後にquadplexとも言っており，いずれにしても非常に高額な賃金となっているようなのは簡単に推測できます．高額とはいえど彼らは20歳前後ながら非常に短い選手生命で競技をするのですからこの程度の水準となっていることはプロシーンの存続，キャリアの形成という点からも意味のあることだとは思います．WCSの賞金も増え，選手が選手として，選手らしく生活できるような環境が整いつつあるのは素晴らしいことです．
from TECNOLOGIA
一方でチームの運営はまた別の問題になってくるということは今年の後半から始まったチームオーナーとRiotとの交渉で明らかになっています．またLoLに限らずCSやOWなどeSportsシーンというものが非常に注目を集めており，ビジネスチャンスを狙う人たちが押し寄せているのだろうということも最近様々なリーグが発足されていることからも分かります．彼らのビジネスのためにはチームのブランド力を高めること，そして強いチームとしてリーグで確固たる地位を確保することが必要となります．そのためにもっとも重要なことは，チームに勝ってもらうことです．
勝つために良い選手を確保するとすれば必要となるのはお金で，現在チームが頭を抱える原因ともなっている訳です．
Because players are in an open market territory, there is no salary cap. Therefore they can always have biddings for them up until whatever. There is no cap. So we clubs are paying salaries in an open market.
当然ですが，ルールブックの規定に反しない範囲でプレイヤーはより良い条件を提示するチームへと自由に移籍でき(open market)ます．それは当然の権利で，彼らのキャリアのためにもある程度の自由は担保されているべきです．しかしMontecristo氏も指摘していたことですがチームへの補助が足りず，このまま選手の獲得競争が激化するとチームは選手を留まらせておけないということになります．当然良い選手を確保できないチームは敗退していき，降格の危機にさらされることとなります．そうなれば主要なスポンサーは撤退し，チームは解散となる可能性が高くなります．
G2は降格のシステムがあったからこそLCSに参加できていることもあって，Ocelote氏は賛成なようですが，反対な人もいることを理解しているとのこと．EUやNAの文化の問題もあることから，なんとも言えないようですが，EUとNAでリーグに仕組みが異なるようにするのはプレイヤーの偏りの意味からも反対だそうです．
I’m a big believer that whoever thinks that’s wrong, he knows within his variables that it is wrong. It’s either he’s missing variables to get better context of the whole situation, or we are plain wrong. But truthfully if you look at the numbers, and I try to be as pragmatic as I can with all this, I just see that it is clear that we are not in a balanced system in League of Legends.
しかしながら，昨年のIMT，Echo Fox，そして今年のPhoenix1(著名人から支援)のように資金力を持つスポンサーを背後にもっていれば，有名選手や昨シーズン大活躍した選手たちを次々と獲得することも可能となっています．TSM，CLG，C9，TLのようにendemic(業界の，Logitech，Razerなど)なスポンサーを主として資金援助を受けるチームが太刀打ちできるレベルには限界があるというのは再三語られてきたことで，このままいけばnon-endemicなスポンサー(Coca-Cola，Nikeなど)に食いつぶされる可能性が高くなります．実際Team ImpulseというブランドもPhoenix1へと変わっている訳です．
We are limited by simple rules of the league. Second of all, we cannot have access to media rights that theoretically, because we are a part of the broadcast, we should have access to. You can argue more or less… that we do not own the IP. Obviously the "Soccer" is not owned by anyone, right? But IP here is owned by Riot. Truthfully, they should own some of the media rights. But because we appear, we are also entitled to part of the media rights. However because we do not have access to that, we are not able to generate the revenue in an open market. You see the imbalance?
そして，結論としては今までと変わらずRiotからの支援が希薄すぎるという点に戻ってきます．このように大手スポンサーをバックに，巨額の条件を提示してスター選手を獲得していくチームに対抗するためにもRiotからの支援は不可欠であるとのこと．その中でMedia Rightsというものが特に挙げられており，実際Stream等からRiotがどの程度利益を得ているのかは分からないものの，リーグ参加チームへの還元は行われていないようです．各地域のリーグ，WCS等の国際大会など様々な場面でチームのIPも利用されていることから，Media出演分のインセンティブが支払われないのはおかしいと訴えています．また，彼はYoutube上にアップロードされている大会の動画についても，問題なのではないかとしています．ああいったアーカイブも立派な放送の一部であり，収益の機会となるはずとのことです．
こういった指摘というのはこれまでも見られてきましたが，チームオーナーでもリーグの形式，フランチャイズにするのか昇降格は残すのかについては意見が割れているというのは気になるところです．EUは英国リーグを始めとしたサッカーのリーグで昇降格がありますからそちらの意識が強く，NAは野球やバスケットボールなど地域密着のフランチャイズが根強いということのなのだと思いますが，LoLの性質上地域をまたいで選手の移籍が可能ですから，選手に巨額の条件を提示しやすいフランチャイズのNAに人が偏るかもしれないという懸念は生まれてきます．この点についてもRiotとチームオーナーがどのように交渉を進めてリーグを作っていくのか，注目となりそうです．
Rosterの入れ替わりだけでなく，リーグの形式が変わったりと色々な事が来年から変化し始めるかもしれませんが，チームの運営もいい方向へと変化してくれていることを期待したいところですね．
